画本 厄除け詩集 井伏鱒二

h2298-1.jpg    題: なだれ

 

峯の雪が裂け

雪がなだでる

そのなだれに

熊が乗っている

あぐらをかき

安閑と

莨(たばこ)をふかすような恰好で

そこに一ぴき熊がいる

 

 

h2298-1.jpg   題: つくだ煮の小魚

 

ある日 雨の晴れまに

竹の皮に包んだつくだ煮が

水たまりにこぼれ落ちた

つくだ煮の小魚達は

その一ぴき一ぴきを見てみれば

目を大きく見開いて

環になって互いにからみあっている

鰭(ひれ)も尻尾も折れていない

顎の呼吸するところには 色つやさへある

そして 水たまりの底に放たれたが

あめ色の小魚達は

互いに生きて返らなんだ