新学科創設   山本純子

夏休み間近の職員室では 採点にいそしむかたわら 雑談の種をこぼす人がいる

よその学校では 普通科のほかに 自然研究科とか 人文研究科とか 新しい学科を設置するらしい と誰かが言い出すと

それじゃあうちも対抗して ふんわり科とか ほんわか科とか 創ったらどうだるか と考え出す人がいて

クラス分けはどうするの と声がかかれば 面接してその子がふんわかしているか ほんわかしているか 見分ければいいんだよ とするりとかわし

それじゃやんちゃな子はどうするの と新しく声が加われば にぎやか科っていうのを創ればいいのさ と助っ人が現れる

大いに気を良くした考案者は この際、遅刻の多い子には おおら科っていうものを創ってみるか と腕組みをして椅子にそりかえり

ついでに しとや科っていうのも創って お茶やお花や礼儀作法の授業なんかも取り入れて  ぼくはそのクラスの担任になりたい と机の上の書棚の陰から 身を乗り出す青年教師もいて

この部屋の 肝心の採点は さっぱりはかどらない

 

一編の詩が ぼくにくれたやさしい時間 水内喜久雄 編集