一遍の詩がぼくにくれたやさしい時間  水内 喜久雄 編著

h22324-1.jpg題:  せみ    木村 信子薯

せみは

たった一週間の命のために

永い年月、土の中で暮らさなければはらない

というけれど

土の中の年月こそ

せみの本当の命のよろこびかもしれない

地上のよろこび、なんて思うのは

人間のかってな想像だ

じぶんの羽を

得たいの知れないものと、とまどっているかもしれない

土の中の生活が

あんまり長かったので

高所恐怖症なのかもしれない

あんなにはげしく鳴いているのは

 

 題: 夕焼け    工藤 直子

あしたは かならず

晴れるに ちがいないなあ

あしたも わたしは

たしかに 生きるだろうなあ

あしたこそ

なにかを みるかなあ

きっと そうであり

そうに ちがいなく

そうと 思いたい

・・・・・・・・・・

そんなふうに眺められる

夕焼けが あった

 

題:  ダイアモンド    寺山 修司

 

木という字を一つ書きました

一本じゃかわいそうだから

と思ってもう一本ならべると

林という字になりました

淋しいという字をじっと見ていると

二本の木が

なぜ涙ぐんでいるのか

よくわかる

ほんとうに愛しはじめたときにだけ

淋しさが訪れるのです