くどう なおこ 詩集

h22319.jpg題: 恋するくじら

くじらは独り言をいうようになった。 好きなひとができたからだと思う。

好きなひとができると、どうして独り言をいったり鏡をみたりしてしまうのだろう。

夢も、色つきの長いのを見るようになる。

 

「きっと、れんあい小説の読みすぎじゃないかと思うよ。・・いわゆるかぶれているのさ」

イルカに好きなひとのことを打ちあけたあと、くじらはそういって下をむいた。

「そうじゃないさ、くじら。 あんたは『イワユルカブレ』なんかじゃない。 あんたはほんものさ」

「そうか、ほんものか」

「そうともさ、ほんものさ」

くじらは「ワオ!」と云って、むこうのほうまで泳いでいき、でんぐり返りして戻ってきた。

「そのひとのそばにいくと、ヒレのぐ工合やなんか、面倒みてやりたくなるのさ」

「そうさ。そうにちがいない」

「そのひとと散歩すると、いつも危なくないかどうか、遠くを見はってあげるのさ」

「きっと、そうだろうともさ」

「ほんものかね」

「ほんものさ」

また、くじらは「ワオ!」と云って、むこうのほうまで泳いでいき、でんぐり返して戻ってきた。

「ぼく、そのひとをお嫁さんにしようかしらと思う」

「それはいいね、くじら」

「そうしたら、ぼくはそのひとに、いつでも好きなときに、きれいだね、といってあげる」

「ぼくも、そのひとに、あなたはぼくの親友のお嫁さんですね、といってあげられる」 

「そのひとは、いつでも好きなときに、ぼくのそばで笑ったり昼寝したりするのさ」

「笑ったり昼寝したりするのは、とてもいいことだよ」

「じゃ、イルカ。ぼく、これからそのひとのところへ行って、お嫁さんになって、と云ってくる」

「じゃ、くじら。ぼく、こらから、くじらがお嫁さんをもらいます、という案内状を書いてくる」

 

くじらとイルカは握手をして、大急ぎでむこうとこっちへ泳いでいった。

 

 

題: わたし

きょうは みょうに気持ちが しずかだ

きのうは あんなに はしゃいでいたのに

きのうの わたしと

きょうの わたしと

ちがうひとみたい

 

そういえば いつかはプンプン怒ってたし

わんわん泣いた日も あったけ・・

 

わたしの中に 何人の「わたし」がいるんだろう

あしたは どんな「わたし」に 会うんだろう