13日の金曜日    続・吉野弘  詩集より

座卓をかこみ 家族と夕食をとっていた。

近くの塵紙をとろうとして 坐ったまま横に膝をすべらせた。

そのとき何かを押しつぶした。 

急いで立ち上がると ズボンの裾からインコの雛がころげ出た。

毛の生え揃わぬ赤肌の首を糸のように伸ばし 

翼を苦しげに張り、傾き 軋るように鳴き  羽ばたいて畳を何度も強く打ち

右に左に回り、よろけ のめり 逃げまとった

はじかれるように 次女が悲鳴をあげ 雛を手にのせ  二回へ駈け上がった

 

妻が追いかけてゆき  戻ってきて首を横に振った

雛は  裾のひろいズボンの内側に入りこみ  脛の横でぬくもっていたらしい

肉の乏しい私の毛脛が鳥の死の温床になったー

私は箸を座卓に叩きつけ 私の部屋に引きこもった。

暗い庭で次女が泣いている。  土に埋めようとしているらしい。

私は庭に向かってわめいた。  泣くな!

 

私は依怙地になり  半年断っていたウイスキーで  はらわたを焼いた

私に出来ることは、といえば

膝の下から掠めとられた理不尽の死を  憤怒することだけだった