2011/1/17 (月)

天声人語から

Filed under: ホッとする詩, — hayakawa @ 17:23:34

かつて小説に連載された井上靖の小説『氷壁』は、世に登山ブームを巻き起こした。読まれている方もおられようが、主人公の勤め先の上司が、なかなか味わい深い。穂高岳の氷壁をめざす部下を案じて言う

『登山家というものも、いい加減なところでやめないと、いつかは、命を棄てる事になると思うのだ。危険な場所へ自分をさらすんだからね。確率の上から言ったって、そういうことになる』。 時は流れて、今なら『危険な場所』の最たるものは8千メートルを超す山々だろう

酸素は平地の3分の一しか内。 『死の地帯』と呼ばれ、自然が人間を拒否している場所だ。 世界に8千メートル峰は14座あるが、すべてを登った日本人はまだいない。 10座に挑んでいた名古屋の田部治さん(49)が先月、ヒマラヤで遭難した。

登山に限らず、知名度と実力とがイコールでないことはままある。 田辺さんは逆に、広く知られた人ではなかったが実力は指折りだった。 世界的な難峰や難ルートにいくつも足跡を残してきた。

謙虚な人手もあった。6年前、やはり10座に、やはり49歳で落命した群馬の名塚秀二さんの『偲ぶ会』で出会ったことがある。『登山には拍手も喝采もない。そこがいいんです』と言っていたのが印象深い。淡々とひたむきだったその姿が、大雪崩に消えた。

14座の完登者は世界で20余人を数える。 日本では12座の竹内洋岳さん(39)が最も近い。 一流の登山家ほど『命知らず』の行動から遠いものだ。 『氷壁』の上司の老婆心は胸に封じつつ、だれであれ無事の達成を祈る。

 

PS この記事を読んだ後、『氷壁』を読み返しました。最近では山岳小説 谷 甲州著 『加藤文太郎伝 単独行者』を読み終えました

 

 

 

 

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