2010/4/30 (金)

まどさん 100才100詩集

Filed under: ホッとする詩 — hayakawa @ 17:30:01

h22423.jpg題: 水道のせん  まど・みちお著

水道のせんをひねると 水が出る

水道のせんさえあれば

いつ どんなところでも

きれいな水が出るものだというように

 

とおい谷間の取入れ口も

山のむこうの浄水場も

山の上の配水池も

ここまでうねうねと土の中を

はいめぐってきているパイプも

それらのすべてを つくった人も

いっさい関係ないかのように

 

牛乳びんさえあれば

牛乳がやってくるかのように

電灯のたまさえあれば

電灯がともるかのように

水道せんひねると 水が出る

 

 

題: どこの どなた   まど・みちお著

トイレの スイセン

ベランダの ラベンダー

うんそうやの ハコベ

すいげんちの ミズヒキ

だいくさんちの カンナ

そっこうじょうの カスミソウ

ていりゅうじょうの マツ

しゅうかいじょうの シュウカイドウ

しょくぎょうしょうかいじょうの クチナシ

ぼうりょくだんのいえの ブッソウゲ

ろうじんホームの ヒマ

しんこんさんちの フタリシズカ

いんきょべやの ヒトリシズカ

しあいじょうの ショウブ

じこげんばの げんのしょうこ

ぐらんどの ハシリドコロ

ごみすてばの クサイ

おかしやの アカシヤ

あめやの アヤメ 

 

 

 

 

 

 

まどさん 100才100詩集

Filed under: ホッとする詩 — hayakawa @ 17:24:43

h22423.jpg 題: おみやげ

なんだか 足が軽いと思ったら

さっき電車の中で

知らないよその赤ちゃんが

笑いかけたのだった

わたしを見て

嬉しくてたまらないように

 

その笑い顔を

いつのまにか 胸にかかえていて

それで 夜道の足もとを

てらすようにしながら

わたしは急いでいるのだった

 

父がいなくなった家で

ひっそり 待っている母に

そのおみやげを

はやく見せてあげたくて

2010/4/12 (月)

ポケット詩集 Ⅲ    童話屋

Filed under: ホッとする詩 — hayakawa @ 17:43:16

h2246-5.jpg題:  昨日はどこにもありません   三好 達治

 

昨日はどこにもありません

あちらの箪笥の抽出しにも

こちらの机の抽出にも

昨日はどこにもありません

 

それは昨日の写真でしょうか

そこにあなたの立っている

そこにあなたの笑っている

それは昨日の写真でしょうか

 

いいえ昨日ではありません

今日を打つのは今日の時計

昨日の時計はありません

今日を打つのは今日の時計

 

昨日はどこにもありません

昨日の部屋はありません

それは今日の窓掛けです

それは今日のスリッパです

 

今日悲しいのは今日のこと

昨日のことではありません

昨日はどこにもありません

今日悲しいのは今日のこと

 

いいえ悲しくはありません

何で悲しいものでしょう

昨日はどこにもありません

何が悲しいものですか

 

昨日はどこにもありません

そこにあなたが立っていた

そこにあなたの笑っていた

昨日はどこにもありません 

 

 

 

 

2010/4/9 (金)

ポケット詩集 Ⅲ  童話屋

Filed under: ホッとする詩 — hayakawa @ 17:02:29

h2246-5.jpg題:  父に    江國 香織

 

病院という

白い四角いとうふみたいな場所で

あなたのいのちがすこしづつ削られていくあいだ

わたしはおとこの腕の中にいました

 

たとえばあなたの湯呑みはここにあるのに

あなたはどこにもいないのですね

 

むかし

母がうっかり茶碗を割ると

あなたはきびしい顔で私に

かなしんではいけない

と 言いましたね

かたちあるものはいつか壊れるのだからと

かなしめば ママを責めることになるからと

あなたの唐突な

-そして永遠の--

不在を

かなしめば それはあなたを責めることになるのでしょうか

 

あの日

病院のベッドで

もう疲れたよ

と言ったあなたに

ほんとうは

じゃあもう死んでもいいよ

言ってあげたかった

言えなかったけど。

そのすこしまえ

煙草をすいたいと言ったあなたにも

ほんとうは

じゃあもうすっちゃいなよ

言ってあげたかった

きっともうじき死しんじゃうんだから

と。

言えなかったけど。

 

ごめんね

さようなら、

私も、じきにいきます。

いまじゃないけど。

2010/4/7 (水)

ポケット詩集 Ⅲ    童話屋

Filed under: ホッとする詩 — hayakawa @ 17:31:13

h2246-5.jpg題:  なにもそうかたを・・・・     高橋 元吉

なにもそうかたをつけたがらなくてもいいではないか

なにか得態の知れないものがあり

なんということなしにひとりでにそうなってしまう

 ということでいいではないか

咲いたら花だった  吹いたら風だった

それでいいではないか

 

 

2010/4/2 (金)

一遍の詩がぼくにくれたやさしい時間  水内 喜久雄 編著

Filed under: ホッとする詩 — hayakawa @ 17:57:07

h22324-1.jpg題:  せみ    木村 信子薯

せみは

たった一週間の命のために

永い年月、土の中で暮らさなければはらない

というけれど

土の中の年月こそ

せみの本当の命のよろこびかもしれない

地上のよろこび、なんて思うのは

人間のかってな想像だ

じぶんの羽を

得たいの知れないものと、とまどっているかもしれない

土の中の生活が

あんまり長かったので

高所恐怖症なのかもしれない

あんなにはげしく鳴いているのは

 

 題: 夕焼け    工藤 直子

あしたは かならず

晴れるに ちがいないなあ

あしたも わたしは

たしかに 生きるだろうなあ

あしたこそ

なにかを みるかなあ

きっと そうであり

そうに ちがいなく

そうと 思いたい

・・・・・・・・・・

そんなふうに眺められる

夕焼けが あった

 

題:  ダイアモンド    寺山 修司

 

木という字を一つ書きました

一本じゃかわいそうだから

と思ってもう一本ならべると

林という字になりました

淋しいという字をじっと見ていると

二本の木が

なぜ涙ぐんでいるのか

よくわかる

ほんとうに愛しはじめたときにだけ

淋しさが訪れるのです