2010/3/24 (水)

一遍の詩がぼくにくれたやさしい時間  水内 喜久雄 編著

Filed under: ホッとする詩 — hayakawa @ 15:03:21

h22324-1.jpg題:  地上で     草野 信子

 

帰ってきた日の夜

男は二度ベットから転がりおちた

それまでの八日間

無重力の中で眠っていたから

 

宇宙飛行士の妻が語った

その話が好きだ

宇宙から見る地球に国境線はなかったと

男が語った話よりも

 

地上に生み落とされた

小さないきものは

重力に繋がれて だからこそ

やさしく交わることができることを

そっと思い出させてくれた

 

雨の音が聞こえる

遠い夜の林でブナの実が落下している

そしていま

わたしのうえに重なるひとの

やわらかな重量

 

宇宙飛行士の妻が語った話が好きだ

闇に向かって

わたしに目を見開かせるのは

(人間には国境がない)

美しい観念ではなく

わたしの胸を受けとめる胸

その奥の鼓動だ

一遍の詩がぼくにくれたやさしい時間  水内 喜久雄 編著

Filed under: ホッとする詩 — hayakawa @ 14:49:43

h22324-1.jpg題:  会社の人事  中桐 雅夫

 

「絶対、 次期支店次長ですよ、あなたは」

顔色をうかがいながらおべっかを使う、いわれた方は相好をくずして、

「まあ、 一杯やりたまえ」と杯をさす。

 

「あの課長、人の使い方をしらんな」

「部長昇進はむりだという話だよ」

日本中、会社ばかりだから、飲み屋の話も人事の事ばかり。

 

やがて別れてみんな一人になる、

早春の夜風がみんなの頬をなでていく、

酔いがさめてきて寂しくなる、

煙草の空き箱や小石をけとばしてみる。

 

子供のころは見る夢があったのに

会社にはいるまでは小さな理想もあったのに。

一遍の詩がぼくにくれたやさしい時間  水内 喜久雄 編著

Filed under: ホッとする詩 — hayakawa @ 14:29:38

h22324-1.jpg題: 自分の感受性くらい   茨木 のり子

 

ぱさぱさに乾いてゆく心を

ひとのせいにはするな

みずから水やりを怠っておいて

 

気難かしくなってきたのを

友人のせいにするな

しなやかさを失ったのはどちらなのか

 

苛立つのを

近親のせいにするな

なにもかも下手だったのはわたし

 

初心消えかかるのを

暮らしのせいにするな

そもそもが ひよわな志にすぎなかった

 

駄目なことの一切を

時代のせいにはするな

わずかに光る尊厳の放棄

 

自分の感受性くらい

自分で守れ

ばかものよ