題: てつがくのライオン
ライオンは「てつがく」が気に入っている。
かたつむりが、ライオンというのは獣の王で哲学的な様子をしているものだと教えてくれたからだ。
きょうのライオンは「てつがくてき」になろうと思った。
哲学というのは坐りかたから工夫した方がよいと思われるので,尾を右にまるめて腹ばいに坐り、前肢を重ねてそろえた。
首をのばし、右斜め上をむいた。尾が右で顔が左をむいたら、でれりとしてしまう。
ライオンが顔をむけた先に、草原が続き、木が一本はえていた。 ライオンは、その木の梢をみつめた。
梢の葉は風に吹かれてゆれた。
ライオンのたてがみも、ときどきゆれた。(だれか来てくれるといいな。「なにしているの?」と聞いたら「てつがくしているの」って答えるんだ)
ライオンは、横目で、だれか来るのを見はりながらじっとしていたが誰も来なかった。
日が暮れた。 ライオンは肩がこってお腹がすいた。(てつがくは肩がこるな。お腹がすくと、てつがくはだめだな)
きょうは「てつがく」はおわりにして、かたつむりのところへ行こうと思った。
「やあ、かたつむり。ぼくはきょう、てつがくだった」
「やあ、ライオン。それはよかった。で、どんなだった?」
「うん。こんだった」
ライオンは、てつがくをやった時のようすをしてみせた。
さっきと同じように首をのばして右斜め上をみると、そこには夕焼けの空があった。
「あゝ、なんていいんだろう。ライオン、あんたの哲学は、とっても美しくとっても立派」
「そう?・・とても・・何だって? もういちど云ってくれない?」
「うん。とっても美しくて、とっても立派」
「そう、ぼくのてつがくは、とっても美しくてとっても立派なの? ありがとうかたつむり」
ライオンは肩こりもお腹すきも忘れて、じっとてつがくになっていた。
題: 恋するくじら
くじらは独り言をいうようになった。 好きなひとができたからだと思う。
好きなひとができると、どうして独り言をいったり鏡をみたりしてしまうのだろう。
夢も、色つきの長いのを見るようになる。
「きっと、れんあい小説の読みすぎじゃないかと思うよ。・・いわゆるかぶれているのさ」
イルカに好きなひとのことを打ちあけたあと、くじらはそういって下をむいた。
「そうじゃないさ、くじら。 あんたは『イワユルカブレ』なんかじゃない。 あんたはほんものさ」
「そうか、ほんものか」
「そうともさ、ほんものさ」
くじらは「ワオ!」と云って、むこうのほうまで泳いでいき、でんぐり返りして戻ってきた。
「そのひとのそばにいくと、ヒレのぐ工合やなんか、面倒みてやりたくなるのさ」
「そうさ。そうにちがいない」
「そのひとと散歩すると、いつも危なくないかどうか、遠くを見はってあげるのさ」
「きっと、そうだろうともさ」
「ほんものかね」
「ほんものさ」
また、くじらは「ワオ!」と云って、むこうのほうまで泳いでいき、でんぐり返して戻ってきた。
「ぼく、そのひとをお嫁さんにしようかしらと思う」
「それはいいね、くじら」
「そうしたら、ぼくはそのひとに、いつでも好きなときに、きれいだね、といってあげる」
「ぼくも、そのひとに、あなたはぼくの親友のお嫁さんですね、といってあげられる」
「そのひとは、いつでも好きなときに、ぼくのそばで笑ったり昼寝したりするのさ」
「笑ったり昼寝したりするのは、とてもいいことだよ」
「じゃ、イルカ。ぼく、これからそのひとのところへ行って、お嫁さんになって、と云ってくる」
「じゃ、くじら。ぼく、こらから、くじらがお嫁さんをもらいます、という案内状を書いてくる」
くじらとイルカは握手をして、大急ぎでむこうとこっちへ泳いでいった。
題: わたし
きょうは みょうに気持ちが しずかだ
きのうは あんなに はしゃいでいたのに
きのうの わたしと
きょうの わたしと
ちがうひとみたい
そういえば いつかはプンプン怒ってたし
わんわん泣いた日も あったけ・・
わたしの中に 何人の「わたし」がいるんだろう
あしたは どんな「わたし」に 会うんだろう